2014年11月04日

日本酒 未来への提言 第一回『脱 特定名称酒 論』

シリーズ第五回、日本酒 未来への提言
第一回『脱 特定名称酒 論』

これを読んでいる皆さんはたぶん特定名称酒と聞いてピンと来ることでしょうが、日本酒を口にしない約95%の日本人には全く異次元の世界でしょう。

ましてや、この特定名称酒のカテゴリー分けで、楽しい食事と日本酒のマリアージュをする際にどれほど役に立つでしょうか?

上記のピンと来る!方のほとんどが役に立たないと思っているのではないでしょうか。

また、ピンと来る!というかたのほとんどが一方で国酒と世界にPRすべきだ!と考えている割には世界の人々へ特定名称酒を説明できないのではないでしょうか?
特に香りの感じ方や味わいの違いなど、はたまた料理とのマリアージュでどれでけ外国の人に説明できるでしょうか?

さらに突っ込んで考えると、アルコール添加したお酒とアルコール無添加のお酒が特定名称酒では同列に語られていますが、世界の常識や税制からすると非常に異常な事態であることの認識をされている人が果たしてどれだけいることでしょう?

そしてこのアル添とアル添してない純米系のお酒の香り、味わい、楽しみ方、マリアージュの区別を、そして制度的内容の違い、歴史的事情等も合わせて世界の人に世界のワインラヴァーやあらゆる酒のマスターの方々に、この日本ではたして彼らの納得いくように説明できる人が何人いるか、心細い状況にあります。

なぜ私たちは、こんなに日本酒を実用的にも世界の人々にも説明できない、使い勝手の悪い名称呼称制度を使い続け無ければいかないのでしょうか?

そして特に問題なのが、この特定名称酒制度に切り替えて20数年となりますが、この20年間の日本酒の消費は下降の一途を辿り、一向にその歯止めが止まろうとしておりません。

確かに近年は輸出が好調と言われておりますが、大半の酒は安酒です。好調なのは日本料理店(特に外国人にオーナーのなんちゃって日本料理を語る安い店、稀に高級店も含むが)の世界的増加・出店等が主な理由であって、日本酒業界の取り組みが理由とは言えないことが重要です。
これはまるで日本における紹興酒と同じで、国内で中華料理店の数が増えれば相対的に紹興酒の出荷も増える、みたいな。
かと言って、紹興酒が日本国民に一般的に広く認識され普及しているかというとそうとはいえない。と同じ理屈です。

私が海外で非常に難しいと考えることは、日本国内においてマーケティング的にも、教育的にも失敗した特定名称酒ベースの普及活動とそのPR方法を、そっくりそのまま海外に持って行っても意味がないと言うこと。

世界中、何処に行っても特定名称酒制度のお陰でサケラヴァーや流通関係者等も皆混乱している。

つまり特定名称酒制度とそれをベースにした教育そのものが功を奏していないことに日本酒業界全体がいい加減気付くべき時期に来ていると思う。

では私が特定名称酒制度が要らないと思う幾つかの理由を説明します。

1)お米の生ジュースから日本酒は造られていない。ーという事実。
ワインは葡萄の生ジュースから出来てます。日本酒のように水を最終製品の70%近く入れるようなことはしません。

だからワインではその水分がくる土壌や気候、そしてその年の葡萄の出来に注目します。

前者が「テロワール」、後者がヴィンテージとなります。

「テロワール」には国によってその畑のクラスが法律で決めてあったり、そのテロワールで栽培されるべき葡萄品種の選定や葡萄の扱い方や醸造に到る作業工程にまで細かく規定されています。

ところが、でありますが、特定迷称酒は、お米の精米とアル添かアル添でないか(純米)の2次元的な分類しかない。

まず前者のお米の精米についてですが、特定名称酒では精米が高い方が、いかにも高く、高品質のようになっています。

ここで疑問が湧いてこない人は、日本人でありながら人生において“お米を炊いた経験の無い”人です。

一度でもお米をたいたことのある人、もしくは大切な人のために美味しいご飯を炊こうと努力した人でなら理解できると思いますが、

高くてブランド米を買ってきたからと言って、必ずしも最高に美味しいお米を食べれる保証がないことを知っているはずです。

たとえば、炊飯ジャーの性能、お米の正しい研ぎ方や炊き方、更に上級者には食事の目的にあった炊き具合の調整など、実はそう簡単なことでは無いこと位、心得ているはずです。

日本酒はワインのようにお米の生ジュースから発酵などさせませんし、そもそも出来ません。
丁寧に精米したお米をさらに温度調整し、仕込み水という地下水の温度に合わせてから洗米し、そのお米の使用する各プロセスに合わせた最適なお米の水分量確保のための浸漬を行い、水を切り、お米にヒビや欠けたりしないよう細心の注意を払い、正確に蒸し上げます。
この蒸しで失敗すると、それまでの努力が無駄になります。
そしてこの蒸す迄の作業=調理作業を経てから、日本の美しい軟水に蒸し米を溶かし、お米の甘味と旨味を水に吸収させていくのです。
これは日本料理の出汁を取る手順や内容とよく似ています。鰹や昆布からの雑味が出ないよう、細心の注意とタイミングを見計らい丁寧に旨味を水に移していく。つまり日本酒と日本料理はその製造プロセスにおいて同じであり、味の芯となり土台となるプロセスが一貫しているのは世界広しといえども日本くらいです。ついでに言うと此の大切なポイントを見落として申請した和食の世界遺産登録には個人的に非常に失望しています。

さて以上のように、酒もお米を炊くのと同じように、調理プロセスを経てからでないと本当に美味しいかどうか?ちゃんとそのクラスに到達しているかどうかが判らなのです。つまり調理前のお米の状態でのカテゴリー分けなど頭でっかちの机上の空論そのものです。
現に私も経験ありますが、酒米の2ランク格下の加工米でしかも70%の低精米の酒と、酒米で10%以下という非常に高い精米の酒のブラインド•テイスティングにおいて、満場一致で低精米の酒が圧倒的な支持を得ました。それ以降私の中で、精米歩合神話は終焉を迎えました。大切なのはスペックではない、造り手のセンスなんだ!と確信した瞬間でした。

上記の理由から精米歩合を前面に出すことに本質的な意味はないことがおわかり頂けたのではないのでしょうか?

個人的には精米歩合はあくまでも判断材料の一つであって、第一義的に来るものではないと言うことです。あくまでも飲んだ後に見る程度の「どうしてこういう味わいになったんだろう?」という謎解きのひとつのヒントにしかならない程度の物なのです。

ですので未だに精米歩合至上主義を掲げているようでは、いけません。
20年前ならいざ知らず、今や誰でも簡単に大吟醸が造れる技術革新が進んだ現代では精米歩合で自慢しているようでは、その蔵元のフィロソフィーが見えてきません。

日本酒は嗜好品なので、国産車のカタログのようなスペック至上主義では味気ないじゃないですか?
もっと造り手の意志や哲学に耳を傾けながら味わうような、そんな嗜みのシーンをより多く創っていくべきではないでしょうか?とつくづく思います。

次ぎに諸悪の根源、アル添/純米の同列表記です。

サケ・ラヴァーには申し訳ありませんが、世界のほぼ100%の醸造酒ファンは“ワイン”です。

一部の勝山ラヴァー以外は、日本酒という物はデイリーな安いアルコールではなく、ワインセラーに名だたるシャトーのワインとセラーで並べて保管し、ヴィンテージを楽しめるだけの崇高な嗜好品であることを知りません。

故に世界を牽引している高級酒を頂点とした醸造酒マーケットは"100%"ワインが独占しています。

その中において、アルコールを添加していないスティルワインが世界のスタンダードだとすると、アルコール添加したいわゆる「酒精強化ワイン」もしくはフォーティファイド・ワイン、いわゆるシェリーやポートワインですが、常識的にスティルワインとはカテゴリーや酒税・呼称制度が異なっています。

ということはアル添と純米ではその目的、背景、香りや味わいの基準も分けなくては、世界のスタンダードになれないこととなります。

だから世界的に見ても、アルコール全般から見た区分けや税制の区別、制度的区別にも全く即していないのです。

個人的にはアル添はまずその香りで判ります。香りの全体像が非常に不細工です。味わい、特に後味や戻り香において美しさが欠如しています。

たまには巧い造り手のアル添もありますが、一杯目以降飲み続けると直ぐにその馬脚が現れてしまい、結局飲み疲れしてしまいます。

では自分的にどうアル添酒を扱えばいいかというと、アル添はいっその事、世界基準に合わせて「酒精強化日本酒」と呼べばいい。“フォーティファイド・サケ”と海外で呼ぶのがいいのではないでしょうか?

そして思い切って、近年のワインも15度台と日本酒並みにアルコール度数を上げてきているので19-22度位の特徴のある酒を造ればいい。

ある意味、そうやって割り切った方が、消費者を熱狂させハマる酒を造れるかもしれない。

そしてフォーティファイド・サケの強みを活かし、高品質でありながら純米系では難しい常温流通・保管は当たり前で、しかも10年以上の常温長期熟成も出来る本格的な長期熟成酒を目指せばいい。

また直ぐ飲まなければ行けない酒は世界的にテーブルワイン、いわゆる安酒の類。ファイン フォーティファイド•サケとしてワインセラーで10年20年30年は熟成出来る酒質に仕立て上げれば、その地位は一気に上がり、コレクターの対象となって価格も上がり付加価値も上がることでしょう!

どうでしょうか?制度を見直そうとするだけで、日本酒の可能性が広がり、より世界のマーケットを相手にプレイできるようになるのです。

2010年頃を境に、日本酒の技術的進歩とその技術の応用と解釈にマーケットも多様性で応えられるように漸くなってきました。

よってこの先につづく造り手の活動の幅を商品開発でもって切り開くためには将来へ向けた制度改革は必要なことだと思います。

『脱 特定名称酒』

これは造り手、売り手、飲み手、日本酒を愛する全ての人の今後5年のキーワードとなることでしょう!

では全5回シリーズ、第一回はここで終了とさせて頂きます。

2回目は現在密かなブームとして認識が高まっている長期熟成酒にスポットを当てます。
第二回「長期熟成酒・マルチヴィンテージ・ブレンディド・サケで世界を制覇せよ!」お楽しみに!


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